中高年からのQOL

我々が生活で得る情報の8割は視覚からと言われています。視力を向上させることはQOL(Quality of Life-生活の質)を向上させることに繋がります。

このコラムでは「老眼に対する白内障手術」が、どのようにQOLの向上に役立つかを話します。

クリアな視界だけでなく、眼鏡からの解放

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白内障手術は、水晶体の濁りをとって視界をクリアにするだけでなく、同時に人工眼内レンズの移植によって度数矯正ができます。人工眼内レンズはひとりひとりに合った度数を選択し、眼の中に移植します。遠くが見えていない近視に、遠くが見える度数のレンズを移植すれば、裸眼でも遠くが見えるようになり、反対に近くが見えるように治療することも可能です。

また、同時に乱視も矯正でき、だぶりがとれてシャープに見えるようにもなります。つまり、人工眼内レンズには眼鏡やコンタクトレンズのような役割もあるのです。

もともと遠くが良く見える眼(遠視)

遠くが見える方は、当然ながらもともと遠くにピントがあっています。30代までは自身の力で水晶体の厚さを変え、ピントを近くまで容易に合わせることができます。しかし、加齢によって水晶体が硬くなると、厚さをなかなか変えられなくなり、ピント調節の幅が徐々に狭くなってくるのです。40代前半つまり老眼の初期になると、軽い老眼鏡が必要になり、さらに老眼が進むにつれ、老眼鏡の度数も強くなっていきます。それにともない老眼鏡のレンズは厚くなり、眼も疲れやすくなります。また遠視が進行すると、今まで見えていた遠くが見えにくくなり、常に眼鏡がないと生活しづらくなります。軽い遠視の場合、遠くは見えますが、進行した遠視は遠くも近くも見えなくなるためメリットがありません。

 ある程度進行した遠視眼に対する白内障手術は、霞みがとれるだけでなく、眼内レンズによって遠視が改善され、裸眼で遠くが見えるようになりますし、あえて軽い近視にすれば、現状より近くと遠くが見やすくなります。また多焦点眼内レンズによってメガネなしで見える範囲が広がるので、さらに便利な状態になります。

もともと遠くが見えていない眼(近視)

近視の方には、程度にもよりますが一生老眼鏡を必要としない方がいます。

軽い近視は、運転やスポーツ時だけ眼鏡もしくはコンタクトレンズを使用し、それ以外の日常生活はほぼ裸眼で過ごせる便利な状態です。単焦点眼内レンズの白内障手術では、あえてこのような軽度近視状態にする方も少なくありません。一方で近視が中等度以上ある方(強度近視)は、軽度近視の方と少し事情が異なります。強度近視の方は、10代から使用している眼鏡またはコンタクトレンズに慣れているため、煩わしさやストレスを感じない方もいますが、マスクで曇る、スポーツ時に邪魔になるなどの理由で眼鏡が煩わしいと感じたり、アレルギーやドライアイのためコンタクトレンズが長時間使用できなかったりする方もいます。

また、強度近視に老眼が入ってくると、近くを見る際に眼鏡をいちいち外さないといけません。遠近両用の眼鏡で対応できる方もいますが、眼鏡を外して近くを見ることに慣れているため、なかなか遠近両用の眼鏡に慣れない方もいます。コンタクトレンズを使用している方は、遠くの見え方を若干弱くすることによって近くを見やすくする方法がありますが、それだと今まで見えていたよりも遠くが見えなくなるので、その状態に遠用眼鏡をかけている方もいます。また、遠近両用のコンタクトレンズの選択肢もありますが、鮮明さに欠ける、乾燥が気になるなどの理由から、しっくりこない方もいます。

このように強度近視は、軽度近視と違って少し不便かもしれません。

老眼

この強度近視に対する白内障手術は、単焦点眼内レンズの度数を調整して軽度近視にし、術前のコンタクトレンズ装用時の見え方と同じようにできるため、コンタクトレンズが不要になります。さらに、多焦点眼内レンズを使用すれば近くも遠くも裸眼で見えるようになります。

白内障を放置していた場合に起こりうるトラブルを回避出来る

今ある視機能を維持することが目的である緑内障手術とは違い、白内障手術は完全に白内障を治すことが出来ます。

一度の手術で再発することはありません(※水晶体が入っていた袋が白く濁る後発白内障がありますが、外来での診療が可能です)

白内障を放置することで転倒リスクが増したり、見えにくいことによる活動レベルの低下が考えられます。また後述する認知症との関連性も明らかにされています。

「多焦点眼内レンズを用いた白内障手術」をすることで、これらのリスクを回避できる上、きれいな視界でアクティブに活動したり、趣味に打ち込むことができるようになります。

白内障と認知機能の関連性

高齢化が進む日本では、80代の多くが発症する白内障と認知症は国民病とも言えます。

特に認知症は特効薬もなく、進行すると治癒が難しい病気です。

しかし、昨今白内障と認知機能に関する研究が多く発表され、注目されています。

中でも有名なものをいくつか紹介します。

白内障手術は認知症機能障害のリスクを低下させる

約3000人の高齢者を対象にした奈良県立医科大学の大規模疫学調査では白内障手術を受けた人は認知機能障害を生じにくいという結果になりました。

また、視力障害があると認知症のリスクが約2倍高くなることが報告されています。

軽度認知症や高齢者うつによる偽認知症(認知症に見える症状)では、白内障手術によって日常生活を営む機能(ADL)が改善する

筑波大教授、大鹿教授らのグループは平成22年、両目を手術した白内障の患者102人を対象に、手術前と手術後で認知機能などがどのように変化したかを調べています。

白内障手術のメリット
図は産経新聞の記事からの転用です

その結果、認知機能の程度を示すMMSE検査(※1)の平均得点がアップしたほか、鬱状態の程度を示すBDIテスト(※2)の得点は下がって気持ちが前向きになり、視覚にかかわるQOL(生活の質)も高まるなど、手術に大きなメリットがあることを裏付けました。

※1  MMSE:国際的な認知症スクリーニングテスト

白内障手術は認知症の発症率を30%下げる

ワシントン大学のセシリア・リー氏らの調査では「視力回復のため白内障手術を受けた患者は認知症の発症率が30%下がる」という研究結果が発表されました。

リー氏の研究チームは認知症の危険因子特定を目的にした継続調査のデータベースから、白内障ないしは緑内障を患う65歳以上の被験者を選出。白内障の治療手術を受けた人の場合は8年間というスパンで認知症を発症する確率が29%低下しましたが、緑内障の治療手術の場合は認知症の発症率に変化がないことが確認されました。